木組み・土壁・石場建ての伝統構法

 
木組み・土壁・石場建ての伝統構法の建物を作ります。

「伝統構法」の三つの要素、今どきの在来工法との違い、なぜ伝統構法に惹かれるのかなどを説明します。

私の家づくりの原点にあるのは「田舎のじいちゃんばあちゃんの家」です。昔の家って、こんなでしたよね? 今でも中国・四国地方の田舎には、多く残っている作りでもあります。

photo_dentoh_012

古くから地域に残って来ている日本建築の多くが、木組み・土壁・石場建てです。この三要素が揃った家が長持ちしていることは、歴史が証明してくれています。

伝統構法三つの要素

「木組み」、「土壁」、「石場建て」の三要素が揃った家の設計をするのが基本です。

1.木組み

element_1

photo_dentoh_02
家の構造は、木と木を組みあげる「木組み」で軸組を作ります。金物接合をしない設計をします。

photo_dentoh_03

「木組み」は、大工が一本一本の材に「仕口・継手」という凹凸を加工することで実現します。

photo_dentoh_04

金物を使わず、木組みをするのは、美しいから。木をいじめないから。そして、地震など大きな力がかかった時にも、木同士がめりこむことで力がやわらかく伝わり、籠状に組まれた木組み全体で、無理なく対応できるからです。

2.土壁

element_2

photo_dentoh_05

木組の柱と貫の間に竹で小舞を編み、左官が、身近な材料である土で壁を作ります。

photo_dentoh_06

真壁

photo_dentoh_07

柱は覆わずに、表にあらわす「真壁づくり」とします。木と土が湿気を吸収したり放出したりして、家の空気を穏やかに調整してくれます。家の構造がそのまま意匠としてあらわれているのは、明快で美しくもあります。

photo_dentoh_08

およそこのような工程をたどって、何重にも土をつけたり塗ったりします。壁の厚みの中に、木と竹と土とが、みっちりと詰まっています。

3.石場建て

element_3

photo_dentoh_09
石(または独立基礎)の上に、直接柱を建て、足元近くを、足固めでしっかりとつなぎます。家の床下に風が通るので、湿気がたまりにくく、メンテナンスもしやすいのです。

photo_dentoh_10

左:石場建て。礎石の上に柱が固定されずに載っている。柱同士は足元の低い位置で足固めでつながる。
右:土台敷き。コンクリートの立ち上がりの上に寝かされた土台に柱がささり、土台は基礎コンクリートとアンカーボルトで固定される。

今、建築基準法で規定されている標準的なつくりは土台づくり。コンクリートの上に、木を横に寝かせた土台を敷き、そこに柱を差します。横に寝かせた木は腐りやすく、交換も困難で、100年単位での長寿命を維持するのは容易ではありません。

photo_dentoh_11

家が腐朽するのは足元から。長年のうちに、メンテナンスが必要となってきます。石場建てであれば、建物をそっくり持ち上げて、悪くなった柱があっても、補修できます。直せるように作ることが、長寿命の家づくりの秘訣です。

石場建てでは、柱は石の上に置かれているだけで、建物と地面が直接、緊結されているわけではありません。そのため、地震力が家にそっくりと伝わらないで済みます。建築基準法でも想定していないような巨大な地震の時には、柱が石がずれることで、建物に大きな力が加わるのを逃がすことに貢献します。

私自身もメンバーとして関わった伝統的構法の設計法作成および性能検証実験検討委員会で行った、実大実験台実験の映像をご覧ください。

建築基準法との関係

私が設計しているのは、木を見て丁寧につくりあげる「伝統構法」ですが、現代の主流は「在来工法」の木造軸組住宅です。

photo_dentoh_12

伝統構法比較在来工法
大工手刻みの部材による木組み軸組プレカットで量産可能な部材を金物接合
柱や梁をあらわす真壁づくり柱をクロスやボードで覆う大壁づくり
石場建て足元コンクリート基礎に土台敷き

在来工法のルーツ

在来工法という名称から「日本に昔からある工法」と間違えられやすいのですが、そのルーツは、戦後の復興期に、質の悪い建築が広まらないようにという意図で作られた建築基準法にあります。技術がない人にでも早く、安価に、かつ安全な方法を示すというのが当初の目的でしたが、いつのまにかそれがあたりまえの作り方となってしまいました。そのために、それ以前からあった職人技術は、建築基準法に組み込まれないまま、住宅産業による家づくりの効率化・量産化という時代の流れの中で主流からはずれ、伝統構法といえば宮大工、社寺に限った技術と思われてしまっています。

伝統構法が優れている点

私が在来工法でなく、伝統構法を採用する理由をわかりやすく説明するために表にしてみました。

職人技術の評価日本の気候風土の中で培われて来た、長寿命の家づくりのすばらしい知恵を、活かしたい。
手仕事一棟一棟手をかけ、心をこめて、丁寧につくられている。
美しさ設計・施工・素材にごまかしがきかない緊張感と潔さ。できあがりの美しさ、やわらかさ。
感覚性人間の五感になじむ、心地良さ。
耐腐朽性家の足元や構造体があらわしになっているので、風通しがよく腐りにくい。
メンテナンス性なにか問題が起きた時にも発見しやすく、直しやすい。
耐震性ある程度の地震までは土壁でもちこたえつつ、組み合う木のめりこみにより、傾いても倒れず、巨大な地震の場合でも、家の足元が動くことで地震の揺れを家に伝えない。
環境負荷の少なさ身近な、土に還る素材で作れるので、製造時にも廃棄時にも環境に大きな負荷をかけない。国産材を使うことで日本の山や林業を健全に保ちたい。

伝統構法を実現するために

昔は「あたりまえ」だった伝統構法ですが、今、それを手がけるには、その技術をもった職人の存在が不可欠です。

また、建築基準法では在来工法しか位置づけられておらず、伝統構法で実現するためには、その構造安全性を裏付けるしっかりとした設計が必要です。